クジラの化石

みなさん、こんにちは。
クジラ大好きUです。2021年2月、ツチクジラの仲間の化石に新種が発表されました(Kawatani and Kohno, 2021)。しかも、その化石のレプリカが当館にも展示してあるんです!
これはぜひご紹介したいと思い、今回はクジラの化石についてお話します。

生物ははじめ海で生まれました。そして、魚類、両生類、は虫類、鳥類、ほ乳類が誕生するにつれ、生物は陸へと進出していきました。
クジラは他のほ乳類と同じように陸で暮らしていましたが、5400万年ほど前に陸から海へ生活の場を移しました。その後、多くの種に分化していくのですが、必ずしも連続的に化石が見つかっているわけではなく、どのように多様化していったのか、いつから現生種(現在生きている種)が存在していたのかは、ほとんど分かっていません。
*ちなみに展示物にあるオオギハクジラやツチクジラという種名は現生種の名前です。新潟県近海にも生息しています(深く長く潜るクジラなので見ることは難しいですが…)。展示されているものはオオギハクジラの「仲間」、ツチクジラの「仲間」と考えてください

そして、こちらが新種として発表された化石のレプリカです。自然の科学2階 新潟県のなりたち

この化石、クジラのどの部分のものか、分かりますか?

正解は頭骨の一部です。
この写真はクジラの口先が右側にくるよう上から撮ったものになります。
簡単に描いたクジラの図を重ねてみましょう。

赤い矢印の先にある二つの凹みは鼻の穴にあたります。クジラの鼻の穴は、人間のように顔の真ん中にあるのではなく、頭の上にあるのです(頭の上にあれば、泳いでいても呼吸しやすいですよね)
また、ツチクジラは体長10mを超えるクジラで、その頭部には「くちばし」があり、まるでイルカのような姿をしています(下のイラスト)。ですが、この化石にはくちばしの部分は折れていてありません(黄色の枠)。


ツチクジラ(現生種)のイラスト (国立科学博物館 海棲哺乳類図鑑より)
https://www.kahaku.go.jp/research/db/zoology/marmam/pictorial_book/b_bairdii.html

このレプリカのもととなった化石は、佐渡島の鶴子層で発見されました。1989年には、形が現生種のツチクジラに近いことから、この化石はツチクジラ属(ツチクジラの仲間)のクジラである、という論文が発表されました(高橋ら, 1989)。
そして2021年、CTスキャンを使って、見えない部分まで詳しく調査が行われたところ、現在発見されているツチクジラ属の化石の中で最も古く、新種として学名を付けられたことが論文として発表されました。つけられた学名は、Berardius kobayashiiです。更にこの種は2019年に新種として発表されたクロツチクジラ Berardius minimus(Yamada et al., 2019)と似た特徴も持っているそうです。

化石は進化の道筋を明らかにする重要な手掛かりです。
形態を調べることが動物化石の研究の主流です。大昔のものと今のもので形がかなり違うものがあり、化石はその間を埋めることがあるそうです。
つまり、発見された化石が、現生種やこれまで発見された同属の化石種の形態と「どこが違うのか」、「同じところはどこか」を調べることで、生き物の過去から現在までの変化の様子が分かるようになります。

そのため、この発見(新種であること、現時点で発見されている同じ仲間の化石の中で最も古い個体であること、同じ仲間の現生種と共通する特徴があること)は、ツチクジラ属の始まりと、その後の多様化の様子を明らかにする重要な手掛かりの一つとなります。
重要な手掛かりをぜひ一度じっくり観察して、陸から海へと戻っていったクジラの進化の流れを感じてみてはいかがでしょうか。

コミュニケーター U

 

参考
・ 一島啓人.2002.化石が物語る鯨類の進化と多様性,村山司ほか(編)「イルカ・クジラ学―イルカとクジラの謎に挑む」,出版/ 東海大学出版会
・一島啓人.2008.進化と適応,村山 司(編),「鯨類学」,出版/ 東海大学出版会
・高橋啓一・野村正弘・小林巖雄.1989. 佐渡島小木町堂窯産の鯨類(ツチクジラ属)頭骨化石の1標本,地球科学 43巻,2号,pp.102-105
・Kawatani, A. and Kohno, N. 2021. The oldest fossil record of the extant genus Berardius (Odontoceti, Ziphiidae) from the Middle to Late Miocene boundary of the western North Pacific, Royal Society Open Science. 19pp.
・Yamada, T. K., Kitamura, S., Abe, S., Tajima, Y., Matsuda, A., Mead, J. G., and Matsuishi, T.F. 2019. Description of a new species of beaked whale (Berardius) found in the North Pacific, Scientific Reports. 14pp.