当館では「ここに注目!おすすめ展示ガイド」というイベントを毎月行っています(8月を除く)。スタッフおすすめの展示をピックアップし、わかりやすく解説しています。

私は4月に「人工衛星をみてみよう」というテーマで担当しました。当館に展示してある3つの人工衛星(実物大模型)を中心に、私たちの生活に欠かせないものであることを解説しました。次回は9月に同じテーマで開催予定です。ぜひ、遊びにいらしてくださいね!

ところで、4月の展示ガイドにて、お客様から「人工衛星の最後はどうなるのですか?」という質問をいただきました。確かに、役目を終えた人工衛星はどうなるのでしょうか?
人工衛星には「設計寿命」という期間があります。設計寿命とは人工衛星の種類や目的などに合わせて「この期間は使い続けよう」と設定した期間です。
設計寿命をむかえ、運用終了となった人工衛星は大気圏に突入させて燃え尽きるか、運用中の人工衛星の邪魔にならないように、軌道を移動させます。軌道を移動した人工衛星はしばらく地球の周りを回り続けます。そして、大気や重力の影響をうけてだんだんと地球に引き寄せられ、やがて大気圏に突入します。
このように、事前に運用期間が決められている人工衛星ですが、設計寿命をむかえても運用可能であると判断された場合、設計寿命を超えて運用を継続することもあります。
例えば、「ハッブル宇宙望遠鏡」は当初の予定よりも長い期間、現在も運用が続けられている人工衛星です。

ハッブル宇宙望遠鏡は1990年にNASA(アメリカ航空宇宙局)が打ち上げた、宇宙空間で天体観測を行う人工衛星です。地上の望遠鏡は地球の大気によって画像がぼやけてしまいますが、ハッブル宇宙望遠鏡は大気圏の外(地上から約550㎞)にあるため、とても鮮明で高解像度の画像を撮ることができ、とても遠くの銀河や、巨大ブラックホールの証拠を見つけています。
また、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した数々の美しい宇宙は科学的な価値だけではなく、一般の人々の宇宙への関心を高めるきっかけにもなりました。当初の設計寿命は約15年とされていましたが、宇宙飛行士による整備や修理により現在も運用が続いており、今年で35周年をむかえました。そして、今後もあと10年は活躍が続く予想です。

ほとんどの場合、人工衛星は宇宙へ打ち上げられた後、宇宙空間で整備や修理を行うことはありません。気象衛星や通信・放送衛星の軌道(地上から約36,000㎞)はとても高いため、近づくことができませんし、地球観測衛星のように地球に近い軌道(地上から約400㎞~1,000㎞)だとしても、故障した人工衛星を宇宙空間でとらえる作業は大変困難であり、危険です。また、宇宙飛行士の安全確保や整備、修理に伴う費用も課題です。
しかし、ハッブル宇宙望遠鏡は人工衛星としては初めて宇宙空間での作業を想定した構造となっていて、宇宙飛行士による整備や修理は計5回も成功しています。

一時は老朽化が深刻化し、運用断念も検討されたハッブル宇宙望遠鏡ですが、最先端の科学技術と勇敢な宇宙飛行士によって数々の困難を解決し、現在も様々な宇宙の画像を私たちに届けてくれています。
とても美しい宇宙の姿を皆さんもチェックしてみてくださいね。

これからも頑張れ!ハッブル宇宙望遠鏡!
コミュニケーター 今井
<参考資料>
・池内 了監修ほか. 小学館の図鑑NEO〔新版〕 宇宙. 小学館. 2018年
・JAXA. “寿命を終えた人工衛星はどうなるの?”. サテナビ. https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/satellite-knowledge/whats-eosatellite/lifetime/index.html, (参照:2025年6月6日).
・JAXA. “打ち上げに失敗した人工衛星はどうして回収できないのですか?”. ファン!ファン!JAXA!. https://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/335.html, (参照:2025年6月6日).
・NASA. “ハッブル宇宙望遠鏡に関するよくある質問”. ハッブル宇宙望遠鏡. https://science.nasa.gov/mission/hubble/overview/faqs/, (参照:2025年6月6日)
・中西 貴之. 宇宙と地球を視る人工衛星100 : スプートニク1号からひまわり、ハッブル、WMAP、スターダスト、はやぶさ、みちびきまで(サイエンス・アイ新書). SBクリエイティブ株式会社. 2010年