私たちの身近にいる『生きた化石』

シーラカンス、カブトガニ、オウムガイ、ウミユリ、カモノハシ…

これらは何千万年、あるいは何億年も前に誕生し、その姿をほとんど変えることなく現在まで生きのびている生物で、『生きた化石』または『生きている化石』と呼ばれています。

太古の昔に地球で暮らしていた生物を、ほとんど変わらない姿で現代でも見ることができると思うと、なんだかワクワクしますよね。

ただ、そうは言っても『生きた化石』って、どれも滅多に見られないものだと思っていませんか?

実は私たちは、日々の生活の中で『生きた化石』と遭遇しているかもしれません。それは…台所のお邪魔虫。嫌いな昆虫でよく名前が挙がる昆虫。

そう、ゴキブリです!(苦手な方はすみません!)

私達人類の祖先が誕生したのは約200万年前。一方、ゴキブリの祖先にあたる昆虫は3億年以上前の古生代石炭紀に姿を現し、恐竜のいた時代(中生代)になって今のゴキブリの仲間に進化したと言われています。(最近の研究では、ゴキブリの祖先が出現したのは石炭紀の次のペルム紀〔二畳紀〕だとする説もあります。)

つまり、ゴキブリは人間よりもずーーーっと前から地球に存在していたのです。当館には、そんなゴキブリの化石が展示されています。

自然の科学2階 トンボとゴキブリの化石

こちらは恐竜のいた時代、中生代白亜紀前期のゴキブリの化石です。今の姿と比較しても、ほとんど違いが無いように見えますね。

では、どうしてゴキブリは、現在までほとんど姿を変えずに生き続けることが出来たのでしょうか。考えられる理由をいくつかご紹介します。

・小さく、飢えに強かったから
ゴキブリは太古から現在まで最も大きい種類でも10㎝足らずで、1㎝~4㎝くらいのものが大部分を占めています。恐竜のように巨大化が起こらなかったため、急激な気候の変化などの天変地異に伴うエサ不足に耐えることができたのではないかと考えられています。活動期の昆虫のほとんどは2~3日何も食べないと餓死してしまうのに対し、ゴキブリはかなりの日数を生き抜くことができます。(ワモンゴキブリは雄が1ヶ月、雌が40日生きていたという実験結果があるそうです。)

・雑食性だったから
ゴキブリは基本的には何でも食べます。人間が食べるような食べ物、飲み物はもちろん、人間の髪の毛、フケ、垢などなど…。エサがなければ自分たちの糞や、時には共食いもしてしまう生き物です。人類が出現する前は、森の中で植物の種子や果実、樹液、昆虫の死骸などをエサにしていたと考えられています。このような食性が、生き残る上で大変有利だったのではないでしょうか。

 

・動きがとても速いから
ゴキブリを発見しても、足が速くて逃げられてしまった経験はありませんか?ゴキブリはとても足が速く、1秒間で約50㎝の距離を走るゴキブリもいるそうです。その俊敏さで、外敵から逃げていたのでしょう。

 

・どこにでも潜り込み、身を隠せるから
ゴキブリの体は扁平で、僅かな隙間があればどこにでも潜り込めると言われています。ゴキブリは、体は硬いですが弾力性に富んでいるため、自分の身体の厚みよりも狭い隙間にだって潜り込むことができてしまうのです。

その他にも、繁殖力の強さなどの様々な理由が重なった結果、現在まで生きのびてきたと考えられます。

そんなゴキブリ、世界には4600種くらいいるってご存知でしたか?

そのうち日本に生息しているのは約60種。ゴキブリというと、台所やお風呂などの水回りに出没し、ゴミをあさるイメージがありますが、人家(屋内)に入ってくるものはクロゴキブリやチャバネゴキブリなどの10種類にすぎず、多くのゴキブリは一生野外で暮らしています。

森の中にはオオゴキブリなどの朽ち木を食べて暮らしているゴキブリもいて、倒れた木を土に返す大切な役割を果たしています。その他にも、見た目が綺麗でペットとして人気のあるゴキブリや、テントウムシにそっくりなゴキブリなど、様々な種類のゴキブリがいます。

ゴキブリは誰でも名前を知っている昆虫ですが、その古い歴史や生態については知らない事ばかりですよね。ゴキブリという昆虫のほんの一部しか知らずに「嫌いだ」と言って遠ざけている人も多いのではないでしょうか。

怖がらずにもう少しだけ知ってみると、見る目が変わるかもしれませんよ。

 

インタープリターS


《参考文献》
『ゴキブリ3億年のひみつ 台所にいる「生きた化石」』著者:安富和男
『くらべた・しらべた ひみつのゴキブリ図鑑』著者:盛口満
『生きている化石図鑑 すばらしき「名品」生物たち』著者:土屋健