当館には様々な化石の展示がありますが、
その中でも、少し変わった呼び名のある化石をご紹介します。
これは「天狗の爪」と呼ばれていた化石です。
え・・・天狗って架空の生き物じゃないの??
もちろん、本当に「天狗の爪」なのではありません。
「天狗の爪」とは、サメの歯の化石の昔の呼び名だったのです。
当館に展示されているサメの歯の化石は、
「カルカロドン・メガロドン(Carcharodon megalodon)」(左)と、
「カルカロドン・アングスティデンス(Carcharodon angustidents)」(右)という、いずれも絶滅した巨大なサメのものです。
ではなぜ、サメの歯の化石が「天狗の爪」と呼ばれていたのでしょうか。
実は、化石に関する学問である古生物学が日本に導入されたのは、
明治時代になってからのことでした。
それ以前は、化石が発見されても、
その化石の正体が一体何なのかということまでは
あまり知られていませんでした。
また、サメは柔らかい骨をもつ軟骨魚類で、
骨格は化石になりにくく、発見されるものの多くは歯のみです。
そして、サメの歯は標高の高い山の中から見つかることもあったため、
まさか海の生き物の歯だとは思わなかった昔の人々は、
この三角形の正体不明の石を、その色や形から「天狗の爪」と想像したそうです。
「天狗の爪」は、珍しく貴重なものとして、各地の寺院等に奉納され、
現在でも寺宝として大切に祀られているものもあるようです。
たしかに「天狗の爪」と言われてみると、
そのようにも見えてくるから不思議です。
それでは、下の写真は何の化石に見えますか?
これは、ウミユリという、ウニやヒトデと同じ仲間の生き物の化石です。
お金を紐で通したように見えることから「銭石(ゼニイシ)」や、
ムカデのようにも見えることから「百足石(ムカデイシ)」とも呼ばれたそうです。
この呼び名を知ってからというもの、
私にはムカデにしか見えなくなってしまいました。
昔の人々の想像力、すごいですよね。
自然の科学2階には、この他にも様々な化石が展示されています。
何の化石に見えるか、想像しながら展示を見てみるのも面白いですよ!
インタープリター・土屋
≪参考≫
・『大日本百科事典』出版:小学館
・『東大古生物学 化石からみる生命史』
著:佐々木猛智、伊藤泰弘、出版:東海大学出版会
・『図解 世界の化石大百科』
著:ジョヴァンニ・ピンナ、出版:河出書房新社
・『原色化石図鑑』
著:益富寿之助、浜田 隆士、出版:保育社
・『東京大学総合研究博物館 東大古生物学の130年』
・『熱田神宮 宝物館だより』
www.atsutajingu.or.jp/jingu/bunkaden/pdf/b_197.pdf
・『大垣市金生山化石館 化石館だより』