新しい年になり、しばらく経ちましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
さて、昨年の我が家のニュースですが、少しずつ修理しながら15年以上乗っていた家族みんながお気に入りの車を、新しい車に買い替えました。その決心をさせたのは、整備士さんに告げられた「“触媒”が故障しています」という点検結果です(直すとなると高額だったのです…)。はて?触媒って、化学の授業で勉強したあの触媒ですよね?でも、自動車に触媒とは初耳です。自動車に詳しい人ならよくご存知かもしれませんが、私の周りの人たちも知らないようでしたし、とても気になったので、調べてみました!
まず、触媒とはなんでしょう?触媒とは、「化学反応において、そのものは変化しないけれど、反応の速さを変えてくれる物質」です。中学の理科で、過酸化水素水に二酸化マンガンを加えると酸素が発生することを勉強しますが(下図)、この時の二酸化マンガンは反応の前後でなにも変わらず、過酸化水素水の分解を助けて反応を進めている“触媒”です。
こんなふうに化学反応の手助けをするしくみが自動車にも搭載されているんです。一般的には「触媒コンバーター」や「自動車触媒」と呼ばれている装置で、大気汚染の原因となる自動車の排出ガスを浄化する働きがあります。一体、どんな化学反応が起こっているのでしょうか?
排出ガスに含まれる大気汚染の原因となる毒性を持った気体とは、下の表にあるように、炭化水素、一酸化炭素そして窒素酸化物の3つです。これらを、炭化水素は二酸化炭素と水に、一酸化炭素は二酸化炭素に、また窒素酸化物は窒素にすることで浄化する、そんな反応に役立っているんです!
毒性を持った気体 | 毒性 | 反応後 |
炭化水素(HC) | 発がん性成分を含んでいる | 二酸化炭素(CO2) 水(H2O) |
一酸化炭素(CO) | 血液中で酸素の運搬ができなくなる | 二酸化炭素(CO2) |
窒素酸化物(NOx) | 二酸化窒素(NO2):呼吸障害を引き起こす | 窒素(N2) |
現在、ガソリン車にはこの3つの大気汚染物質を同時に浄化する触媒として開発された「三元触媒」が搭載されています。三元触媒では貴金属のプラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)が触媒として働く物質です。
では、触媒コンバーターが自動車のどこにあるかというと、排気系であるエンジンとマフラーの中間に設置されています。外側は鋼鉄製、内部はセラミック材でできたハニカム(蜂の巣のような)構造の触媒担体(触媒の土台)になっており、その担体の中に触媒として働く物質が散りばめられています。エンジンから出た排気ガスが触媒コンバーターを通り抜けると、ガス自体の熱と触媒の作用によって化学反応が起こるのですが、内部がハニカム構造になっていることで排出ガスと触媒が接する表面積が広くなるので反応が効率よく進むのだそうです。
これがついていないと国の排ガス規制をクリアすることが難しくなってしまう大事な装置なのです。
生活の科学3階の自動車の展示ではエンジンとマフラーの間にある触媒コンバーターを、ファイン・セラミックスと生活のコーナーでは触媒担体を見ることができます。触媒担体はとても細かい構造になっていることがよくわかるので、ぜひご覧ください。
触媒に使われている貴金属は希少で高価な、いわゆる「レアメタル」であることから、使用済み触媒コンバーターからのリサイクルや、レアメタル使用量削減に向けた研究が進んでいるようです。貴金属を使わなくてもよくなれば、原料が手に入りやすくなって価格も安くなりそうですね!
私たちや地球の環境のために働いている触媒。自動車が使われる数年から十数年のあいだ、300~600℃の温度のもとで働き、条件次第では1000℃もの高温にさらされ、機械振動に耐えながら、しかもメンテナンスフリーで排気ガスを処理し続けているんです。本当にすごい!こんなにすごい働きをしているのに、特にアピールすることもなく、ひたすら排気ガスをきれいにしてくれているなんて…。いつもお世話になっていたのに、今まで全然知らなかったことを深く反省しつつ、これからは応援と感謝をしようと思います。ありがとう!!
コミュニケーター F
<参考文献>
- Suvi Aspholmほか. フィンランド理科教科書: 化学編. 化学同人, 2013.
- 触媒工業協会. “触媒とは何か”. 会員が作る触媒について. https://cmaj.jp/aboutcatalysts/what/, (参照 2024-11-4).
- 阿部 英樹. 自動車排出ガス触媒の現状と将来. 科学技術動向. 2010, (12), p.8-16.
- 曽布川英夫ほか. 特集, ナノスケール構造制御材料の物性と応用: 自動車用触媒の構造と特性ーナノスケールの視点に立ってー. まてりあ. 1996, 35(8), p.881-885.
- 菊地英一ほか. 新しい触媒化学. 新版第9刷, 三共出版, 2022.